生き残るのは、社員を鍛えられる会社|人手不足時代に必要な「育成力」とは

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人手不足なのに、なぜ「誰でもいい」とはならないのか

「求人を出しても応募がない」
「経験者を募集しているが、なかなか採用できない」
「採用しても、期待していたような人材ではなかった」。

人手不足が深刻になるなか、このような悩みを抱えている中小企業は少なくありません。

しかし、人手不足だからといって、「誰でもいいから来てほしい」という会社は、それほど多くないのではないでしょうか。

企業が求めているのは、単なる「人」ではありません。自社の仕事を理解し、一定の成果を出してくれる「仕事ができる人」です。できれば、入社後すぐに活躍してくれる「即戦力」を採用したいと考えるのは当然でしょう。

ところが、ここに人手不足時代の採用の難しさがあります。

人材が不足しているにもかかわらず、企業が求める人材の水準は下げられない。だから、「人がいない」と「採りたい人がいない」が同時に起こります。

もちろん、事業を行う以上、誰でも採用すればよいわけではありません。

しかし、必要なスキルを持った人材が採用できなければ仕事ができない、という状態を当たり前と考えてよいのでしょうか。

私は、人手不足が続くこれからの時代には、この前提そのものを見直す必要があると考えています。

「即戦力を採れば解決する」は、本当に可能なのか

企業が経験者を採用する理由の一つは、教育にかかる時間を短縮できるからです。

特に人手不足の会社では、新しい社員を一から教育する余裕がありません。そのため、同業他社で働いた経験がある人や、同じ職種を経験してきた人を採用したくなります。

しかし、経験者だからといって、自社ですぐに活躍できるとは限りません。

同じ業界であっても、扱っている商品やサービスは違います。顧客も違えば、設備、業務プロセス、社内ルール、仕事の進め方も違います。求められる品質やスピード、判断基準も会社によって異なります。

つまり、「経験者」と「自社で仕事ができる人」は同じではありません。

ここを混同すると、採用のミスマッチが起こります。

企業側は「経験者なのだから、このくらいはできるだろう」と期待します。一方、採用された社員からすれば、「前の会社では、このやり方で問題なかった」ということもあります。

その結果、「せっかく経験者を採ったのに、思ったほど使えない」という評価になってしまいます。

そもそも、自社の業務に必要なスキルをすべて持った人が、ちょうど転職市場に現れ、自社の求人に応募してくれることを期待する方が無理なのかもしれません。

人材を外から採用することは必要です。しかし、外から「完成された人材」を調達することだけに頼る経営には限界があります。

仕事に必要な「コアスキル」は、誰のものなのか

中小企業を支援していると、「この仕事は○○さんしかできない」という話を聞くことがあります。

製造業であれば、特定の加工や機械の調整ができる人。営業であれば、重要顧客との関係を一手に引き受けている人。管理部門であれば、その人がいなければ処理方法が分からない業務を抱えている人です。

このような社員は、会社にとって貴重な存在です。

一方で、経営という視点から見れば、別の問題もあります。

その人が退職したら、その仕事はどうなるのでしょうか。

事業を行うために不可欠なスキルであるにもかかわらず、特定の社員がいなくなると失われてしまうのであれば、それは会社としてそのスキルを十分に保有できているとは言えません。

もちろん、社員が持っている知識や専門性のすべてを会社のものにする、という意味ではありません。

しかし、自社の商品やサービスを提供するために必要なコアスキルは、個人だけに帰属させるのではなく、チームや組織の能力へと変えていく必要があります。

Aさんしかできなかった仕事をBさんもできるようにする。さらにCさんもできるようにする。

こうして初めて、個人の技能が組織の技能になります。

人手不足を考えるとき、単純に「何人いるか」だけを見るのではなく、「会社として、どのような技能を持っているか」という視点が必要です。

技能は「引き継ぐ」だけでは足りない

属人化を防ぐために、マニュアルを作ったり、OJTを行ったりしている会社は多いと思います。

もちろん、こうした取り組みは重要です。

Aさんしか知らなかった仕事をマニュアルにまとめ、Bさんにもできるようにする。それによって、Aさんが休んだり退職したりしても仕事を継続できるようになります。

しかし、これだけでは十分ではありません。

なぜなら、それはAさんが持っていた技能を「保存」しているだけだからです。

仮にAさんが持っている技能を100としましょう。

AさんからBさんへの引き継ぎによって、Bさんも100の仕事ができるようになった。それだけでも大きな意味があります。

しかし、会社が成長していくためには、その先が必要です。

Bさんが仕事をするなかで、「もっと効率的な方法はないか」「このやり方を変えれば品質を上げられるのではないか」と考え、技能を105にする。そして、それをCさんに伝え、Cさんがさらに110にする。

このように、技能が人から人へ受け継がれる過程で、少しずつ磨かれていくことが重要です。

人手不足の時代に「技能承継」は大きな課題の一つです。しかし、会社に必要なのは、単なる「技能承継」ではありません。

技能を組織のなかに蓄積し、進化させていく仕組みです。

それができれば、人が入れ替わっても、会社には技能が残ります。そして、仕事を続けるほど、会社そのものが強くなっていきます。

目の前の成果だけを追う会社では、人は育たない

では、どうすれば社員の技能を高めることができるのでしょうか。

特別な研修をたくさん実施すればよい、という話ではありません。

社員が最も多くのことを学ぶ場所は、日々の仕事です。

ところが、人手不足で忙しい会社ほど、ここに難しさがあります。

納期が迫っている。
顧客から急ぎの依頼が来ている。
失敗する余裕がない。

そうなると、「この仕事を一番早く、確実にできるのは誰か」と考えます。

当然、最も仕事ができる人に重要な仕事が集まります。

短期的に見れば、これは合理的な判断です。

しかし、この状態を何年も続けていると、できる人は難しい仕事を経験してさらに成長する一方、まだできない人には簡単な仕事しか任されません。

結果として、両者の能力差はさらに広がります。

そして、「やっぱりこの仕事は○○さんにしか任せられない」という状態が出来上がります。

だからこそ、経営者や管理職は、ときには別の問いを持つ必要があります。

「今日、この仕事を誰にやらせれば最も早いか」だけではなく、「この仕事を誰に任せれば、半年後にできる人を一人増やせるか」と考えることです。

もちろん、失敗が許されない仕事を、経験のない社員に丸投げするという意味ではありません。

少し難しい仕事を任せる。必要なところでは上司や先輩が支援する。結果を確認し、フィードバックする。そして、もう一度やらせる。

こうした経験の積み重ねによって、社員は仕事ができるようになります。

本稿でいう「社員を鍛える」とは、社員に厳しく接したり、長時間働かせたりすることではありません。

仕事を通じて、できることを増やしていくことです。

日本企業が取り戻すべき「人を育てながら仕事をする」という文化

日本企業は、もともと人材を長い時間をかけて育てることを得意としてきました。

新卒で入社した社員が現場に配属され、先輩から仕事を教わり、さまざまな経験を積みながら一人前になっていく。そして、やがて自分が後輩を指導する側になる。

長期雇用を前提としていたからこそ、会社側も時間をかけて社員を育てることができました。

もちろん、現在の雇用環境は大きく変わっています。

転職は珍しいことではなくなりました。終身雇用を前提として、「何十年もかけて育てればよい」と考えることも現実的ではありません。

だからといって、「必要な能力は外から採ってくればよい」という考え方だけになってしまえば、企業の育成力は弱くなります。

そして育成力が弱くなるほど、さらに即戦力採用に頼らなければならなくなります。ここに悪循環が生まれます。

人が足りないから教育する余裕がない。教育しないから仕事ができる人が増えない。できる人に仕事が集中する。その人が辞めると、また即戦力を探す。

この循環から抜け出さなければなりません。

かつての日本型雇用に戻る必要はありません。

しかし、「仕事をしながら人を育てる」「仕事を通じて技能を高める」という文化は、むしろ人材を簡単に採用できない時代だからこそ、取り戻す価値があるのではないでしょうか。

これからは「育成力」が会社の差になる

人手不足や採用難は、一企業の努力だけで解決できる問題ではありません。

今後も、必要な人材を必要なタイミングで採用することが難しい状況は続くでしょう。

だからこそ、「いい人が採れない」というところで思考を止めないことが重要です。

採用した人が最初から自社に必要なスキルを持っていなくても、仕事を任せ、経験を積ませ、フィードバックを行うことで戦力にする。そして、その社員が身につけた技能を次の社員へ引き継ぎ、さらに磨いていく。

その循環を作ることができれば、会社には技能が蓄積していきます。

反対に、特定の社員だけが高度な技能を持ち、その人が辞めるたびにゼロから即戦力を探している会社では、いつまで経っても技能が会社に残りません。

これから企業間で差がつくのは、単純な「採用力」だけではないでしょう。

採用した人を、自社で活躍できる人材に変えられるか。

社員が仕事をするほど、会社のコアスキルが高まっていく仕組みを作れるか。

こうした「育成力」そのものが、企業の競争力になっていくはずです。

人手不足の時代だからこそ、人を育てられる会社が強い。

生き残るのは、優秀な人材を集められる会社だけではありません。

社員を鍛え、人とともに組織そのものを強くしていける会社なのです。

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