1on1の最適解を考える|人材育成のための「育成ミーティング」という考え方

「1on1を導入したものの、なかなかうまくいかない」

最近、このような声をよく耳にします。

社員のエンゲージメントを高めたい。
離職を防ぎたい。
社員の成長を促したい。

そうした目的で1on1を導入する会社は増えています。

ところが、実際に始めてみると、

「何を話せばよいのかわからない」
「部下があまり話してくれない」
「忙しくて予定どおり実施できない」

といった問題が起こります。

「1on1のやり方を、コンサルに教わった方がよいのか」
「管理職に傾聴やコーチングのスキルを身につけさせるべきだろうか」

と考える会社もあります。

会社として本気で1on1に取り組むのであれば、それも選択肢の一つです。

しかし、私は少し違う方向から1on1を考えてみてもよいのではと思っています。

結論から申し上げると、1on1を「人材育成」の場にすることです。

社員の悩みを解決する。
社員のモチベーションを引き出す。
上司と部下が何でも本音を話し合える関係になる。

もしかしたら、そのレベルには至らないかもしれません。

しかし、少し考え方を変えるだけで、1on1を、意味のある活動として、機能させることができます。

目次

なぜ1on1はうまくいかないのか

1on1がうまくいかない理由を考える前に、そもそも1on1に何が期待されているのかを整理します。

一般的な1on1では、次のような目的が挙げられます。

  • エンゲージメントの向上
  • 離職防止
  • モチベーション向上
  • キャリア形成の支援
  • 悩みや不安の把握
  • 心理的安全性の向上
  • 人材育成
  • 上司と部下の信頼関係の構築

どれも重要なテーマです。

しかし、1on1を実際に行うのは管理職です。
これだけ多くのことを期待すると、責任や負担が管理職に重くのしかかります。

多くの会社において、管理職はプレイングマネジャーとして、自分自身も仕事を抱えています。

その上に、1on1において、優れたカウンセラーやコーチのように振る舞うことまで求められれば、負担はさらに大きくなります。

そうでなくても、ハラスメント・リスクが高まる中、管理職は、自らの言動に注意を払っています。

さらに、部下のメンタルまで扱うのは、人によっては、業務以上に重荷になるのではないでしょうか。

1on1に求めすぎていないか

よく、1on1では、

「部下が何でも話せるようにしましょう」

と言われます。

しかし、すべての部下が上司に悩みを相談したいわけではありません。

上司にプライベートなことまで話したくないという考えの人もいれば、自分が何に悩んでいるのか、うまく言葉にできない人もいます。

一方、管理職もコミュニケーションが得意な人ばかりではありません。雑談やプライベートな話が苦手な人も少なくありません。

このような現状を踏まえると、1on1で、

「もっとオープンになりましょう」
「上司は部下の話を傾聴しましょう」
「部下のやる気を引き出しましょう」

と言ったところで、上司にとっても部下にとっても、面倒になります。

昨今、管理職の傾聴力や対話力を高めることが、ますます重要になっています。

しかし、多くの人は、このようなヒューマンスキルを教わらないまま、管理職になります。

もし、すべての管理職に、このようなスキルを求めるのであれば、管理職研修や育成のテーマとして取り組むべきものです。

多くのプラスの効果を期待したからこそ、1on1の導入を決めたことと思います。

しかし、人の問題は、常に一筋縄ではいきません。

むしろ、もっとシンプルに考えてみることです。

上司も部下も「1on1が得意」とは限らない

1on1について考えるとき、忘れてはいけないのが、「1on1を行うのは普通の人である」ということです。

上司も部下も、1on1の専門家でも、トレーニングを受けたわけでもありません。

先に述べたとおり、多くの企業では、管理職の多くが「人を育てる専門職」ではなく、自分自身も営業や製造、技術、事務などの仕事を持つプレイングマネジャーです。

部下もまた、「自分のキャリアについて上司と定期的に対話したい」と考えているとは限りません。

理想的な1on1を追い求めると、制度そのものが難しくなります。

だからこそ、私は、1on1の主な目的を、社内の人材育成に絞ることを勧めます。

部下が、今自分が抱えている仕事について話し、上司が、それについてのフィードバックと、何を期待するかを伝える。

そのための時間として1on1を使うのです。

これであれば、話題探しに困ったり、無理に部下を褒める必要もなくなります。

1on1の目的を絞る

そもそも、会社の中で人材育成について上司と部下が話す機会は、どれくらいあるでしょうか。

人事評価制度がある会社なら、年に1回、評価面談を行うかもしれません。

しかし、それ以外の機会はどうでしょうか。

仕事上のフィードバックは、本来、何かあれば、その都度行うことが理想です。

「ここは良かった」
「ここは改善した方がいい」
「次はこうしてみよう」

こうしたフィードバックが、常日頃から繰り返されれば、部下は、早く仕事を身につけることができます。管理職も安心して、仕事を任せることができるでしょう。

ところが、現実にはそう簡単ではありません。

管理職が忙しく、フィードバックの機会を逃すことがあります。

部下も、わからないことがあっても「忙しそうだから」と質問を控えることがあります。

OJTで仕事を教えるのは、新人を迎えた時ぐらいです。それも、最低限のことができるようになれば、「あとは自分で考えて」となります。

会社は「人材育成が重要だ」と言います。しかし、実際には、社員がどのような経験をし、何を学び、次に何を身につけるのかを、定期的に確認している会社は、それほど多くありません。

多くの会社で、社員の成長は成り行き任せになっているのです。

そこに1on1を利用します。

「人が財産」「人の成長を応援する」を謳っている会社は多くありますが、単なる掛け声だけであることも少なくありません。

これができれば、1on1は一つの大きな価値につながります。

「育成ミーティング」とはどのようなものか

では、1on1で、具体的に何を話せばよいのでしょうか。

実際に今取り組んでいる仕事がトピックなので、難しく考える必要はありません。ただ、育成にフォーカスしたミーティングであるため、進捗確認の場にならないよう、注意する必要があります。

例えば、次のような内容です。

今、取り組んでいる仕事について

まず、部下自身の口から、現在取り組んでいる仕事について話してもらいます。

「何を任されているのか」
「どのような役割を担っているのか」

職場によっては、上司が、部下が何をしているかよくわからない、ということも少なくありません。しかし、これを放置すると、部下が離職した時に業務が回らなくなるなど、いろいろな問題が発生します。

うまくいったこと、うまくいかなかったことは何か

次に、今現在取り組んでいる仕事の中で、うまくいったこと、うまくいかなかったことを、部下自身に振り返ってもらいます。

自ら説明する中で、部下の頭の中で、気づきが生まれます。

深掘りする

部下自身の振り返りに対し、上司は以下のように質問します。

「それはなぜうまくいった(あるいは、なぜ、うまくいかなかった)と思いますか」

この質問に、部下は苦慮するかもしれません。

しかし、まずは部下自身に考えてもらいます。上司がすぐに答えを与えないようにします。大切なのは、部下の自己分析が正しいかどうかではありません。部下が自己分析すること自体に意味があります。

上司からフィードバックする

ここまで部下の話を聞いたうえで、最後に、上司からフィードバックを行います。

ここで大切なのは、上司は自分の考えを率直に話すことです。

上司は評価者でもあります。

1on1では、「よくがんばっている」と言われたのに、評価面談では期待した評価を得られなかった。

こういうしたことが続けば、部下は上司の言葉を信用しなくなります。

そして、上司個人に対する不信だけでなく、会社に対する不信にもつながります。

だからこそ、1on1では、上司が部下に対して率直なフィードバックを行う必要があります。

上司が適切なアドバイスを行うことで、部下が成長し、その結果を部下の評価に反映する、これがあるべき姿です。

また、普段の仕事の中で伝えきれなかったことも、ここで伝えるようにします。

次に何をするかを決める

もし、ここまでの対話の中で、課題が見つかれば、

「次回までに何をやるか」

について、話し合います。課題が見つからなければ、次回までの仕事の予定を確認するだけでもいいでしょう。

これだけで、

仕事 → 振り返り → フィードバック → 期待 → 次の行動

というサイクルをつくることができます。

そして、1on1を、このサイクルを回すためのツールに使うのです。

話した内容よりも「行動」が重要

人材育成の目的で1on1を行う場合、どれだけ深い話をしたかではありません。

大切なことは、行動に結びつくかどうかです。

例えば、部下が

「メンバーとのコミュニケーションがうまくいかない」

という話をしたとします。

ここで「そうですか。頑張ってください」で終われば、何も変わりません。

しかし、

「相手も話しにくそうにしているのであれば、あなたの方から、話しかけてみたらどうでしょう。」

のように次の行動に結びつくような話をすると、部下が行動を変えるきっかけになります。

そして、次回の1on1で、

「やってみてどうでしたか?」

と聞けば、振り返りができます。

これは、特別な研修を受けなくてもできる人材育成です。

ここまでできると、1on1が単なる会話ではなく、行動を変えるための仕組みになります。

それだけでも、会社は変わる

「そんな1on1で何が変わるのか」と思われるかもしれません。

確かに、これだけで社員のエンゲージメントが劇的に向上するとは限りません。
上司と部下が急に何でも話せる関係になるわけでもありません。

しかし、それでも意味があります。

社員が、自分の仕事を振り返る機会が定期的に生まれます。
上司が、部下の仕事についてフィードバックする機会が増えます。
上司と部下のコミュニケーションの機会も増えるでしょう。

これを1年間続けたらどうでしょうか。

年に一度の評価面談しかなかった会社と比べれば、社員の成長について話す機会は大きく増えます。

重要なのは、1回の1on1を完璧にすることではありません。

育成のための会話が、定期的に発生することそのものに価値があります。

1on1の最適解は「無理なく続けられること」

1on1には、「週1回30分」といった代表的な方法があります。

短い時間の中でできることは限られています。

そこで、部下が、言いたいことを伝えきれるとも限りません。上司もコミュニケーション力が高い人ばかりではありません。

1on1で、「あれもこれも」と扱おうとするから、30分では足りなくなります。

人材育成という目的に絞れば、短い時間でも十分に意味のある対話ができます。

それでも難しく感じるのなら、最初は、月1回でも構いません。

重要なのは、定期的に実施されることです。

そして、何よりも重要なのは、1on1の目的を明確にすることです。

部下は、自分の仕事について振り返る。
上司は、仕事ぶりについてフィードバックする。
会社として期待することを伝える。

それを定期的に繰り返す。

これだけでも、会社の中に「人が育つための仕組み」が一つ生まれます。

1on1は、必ずしも高度なコミュニケーション技術を必要とするものではありません。

上司が優れたコーチである必要もありません。
部下が自分の悩みをすべて話す必要もありません。
まして、上司と部下が何でも分かり合う必要もありません。

1on1の最適解は、最も高度な1on1ではありません。

その会社の上司と部下が、無理なく継続できる1on1です。

そして、その最初の目的を「人材育成」に置く。

社員が仕事を通じて成長する機会を、会社の中に意図的につくる。

それだけでも、1on1を導入する十分な理由になるのではないでしょうか。


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