日本企業が意思決定できない理由とその回避策

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外資系企業で働く知人と話して感じたこと

日本企業のお客様とお話ししていると、ある共通した光景に出会うことがあります。

会議の場では情報がきちんと集められ、担当者からの状況報告も丁寧になされる。

しかし、いざ「では、どうしますか」という段になると、話が止まってしまう。

「もう少し様子を見ましょう」
「次回、改めて検討しましょう」

——そうした言葉で会議が締めくくられ、結論は次回に持ち越されます。

一方で、外資系企業に勤める知人から聞いた話は、これとは対照的でした。

私が話を聞いた外資系企業では、意思決定そのものは驚くほど早く行われるそうです。

会議の場で方針が決まり、担当者はすぐに動き出す。

ところが、その意思決定の中身をよく聞いてみると、

「最近、社長が変わって、オフィスが移転した」
「キーパーソンだった担当者が、いきなり別の部署に異動した」

正直なところ「本当にそれでよかったのだろうか」と思わざるを得ないものも少なくないというのです。

この二つの話を並べてみて、私は一つの仮説にたどり着きました。

日本企業は「意思決定の質」にこだわるあまり、意思決定そのものが行われない。
外資系企業は「意思決定すること」自体に価値を置くあまり、質が置き去りにされることがある。

どちらも極端であり、どちらか一方が正解というわけではありません。

この記事では、この両極端の間にある「実務で使える答え」について、考えてみたいと思います。

意思決定とは何か

本題に入る前に、「意思決定」という言葉を少し分解しておきたいと思います。

私は、意思決定の質は次の掛け算で決まると考えています。

   意思決定の質 = 情報収集 × 状況判断 × タイミング

情報収集とは、判断材料となる事実やデータを集める作業です。
状況判断とは、集めた情報をもとに「今、何が起きていて、どうすべきか」を見極める作業です。
そして、タイミングとは、その判断を実際の決定として下す瞬間のことです。

ここで重要なのは、これが「足し算」ではなく「掛け算」だという点です。

情報収集と状況判断がどれだけ優れていても、タイミングがゼロに近ければ、意思決定全体の価値もゼロに近づいてしまいます。

逆に、タイミングだけが良くても、情報収集や状況判断が浅ければ、決定の中身は薄いものになります。

この掛け算の構造を頭に置いていただくと、次章の日本企業と外資系企業の対比が、より鮮明に見えてくると思います。

日本企業と外資系企業、それぞれの問題点

日本企業の問題点——タイミングが限りなくゼロに近い

日本企業の会議室でよく見られるのは、情報収集と状況判断が延々と繰り返される光景です。

追加のデータが集められ、関係者への確認が重ねられ、リスクの洗い出しが行われる。

それ自体は悪いことではありません。

しかし、多くの場合、その先に待っているのは結論ではなく「保留」です。

なぜこうなるのでしょうか。

一つには、「誰が決めるのか」が曖昧なまま議論が進むため、最終的に誰も意思決定の当事者になろうとしない、という構造があります。

これを避けるために、便宜上、意思決定者を決めておく企業も少なくありません。

「社長の仕事は意思決定することだ」という言葉も、こうした文脈でよく耳にします。

しかし、ここで一つ注意が必要です。

それは、意思決定者に指名された人物が、必ずしも優れた状況判断能力を持っているとは限らないという点です。

多くの場合、その人物が行っているのは「機が熟したかどうか」を見極める作業にすぎません。

つまり、情報が十分に集まり、社内の空気が「決めてもよい」という雰囲気になるのを待っているだけなのです。

これは実質的に、タイミングを自らの意思でコントロールすることを放棄し、周囲の状況に委ねてしまっている状態だと言えます。

中小企業の場合、この傾向はさらに強く出ることがあります。

社長がすべての案件の最終確認者となり、現場で決められることまで社長のもとに上がってくる。

社長自身も多忙な中で一つひとつに向き合う時間が取れず、結果として案件が滞留してしまう

——こうした構造に心当たりのある経営者の方も、少なくないのではないでしょうか。

外資系企業の問題点——情報収集・状況判断が浅くなりがち

一方、外資系企業では、意思決定のタイミングが極めて明確です。

四半期ごと、あるいは年度ごとに定められた計画に沿って、決めるべきことは決められた期日までに決める。

この点は、日本企業が学ぶべきところが多いと思います。

ただし、その意思決定の中身については、知人の話にもあったとおり、必ずしも十分な情報収集や状況判断を経ているとは限りません。

本国からの号令に沿って決定が下される、あるいは、意思決定者が自身の権限の範囲で自由に判断を行う。

——こうした事情は、意思決定の質を下げる方向に働くことがあります。

つまり、日本企業は「情報収集×状況判断」に偏り、外資系企業は「タイミング」に偏っている。

どちらも掛け算のどこかが弱く、全体としてのバランスを欠いていると言えます。

意思決定の質を左右する視点

では、意思決定の質を高めるために、決定を下す立場の人間は何を意識すればよいのでしょうか。ここでは二つの視点に絞ってお伝えします。

一つ目は「状況認識」です。目の前の情報だけでなく、その情報が生まれた背景や、時間の経過とともに状況がどう変化しているかを捉える力です。

二つ目は「反対意見を歓迎する姿勢」です。組織の中では、どうしても同じ立場の人間同士で議論をすると、意見が一方向に収束しやすくなります。

これを避けるためには、あえて異なる意見を求め、耳を傾ける姿勢が欠かせません。

この二つは、次章でお話しする「仕組み」を機能させるための土台でもあります。

仕組みだけを整えても、決定を下す人間にこの視点がなければ、仕組みは形骸化してしまうからです。

「60点で仮決定し、修正前提で走らせる」という仕組み

なぜ100点を待ってはいけないのか

日本企業が意思決定を保留する背景には、「100点の答えが見つかるまで待とう」という無意識の前提があるように思います。

しかし、100点を待つことにもコストがかかっています。

情報は時間とともに古くなり、競合や市場の状況も変化し続けます。

何より、決定を先延ばしにしている間、組織は何も動いていません。

この「待つことのコスト」は、決定を誤ったときの損失に比べて目に見えにくいため、軽視されがちです。

しかし、実際には、決定を誤ることと同じか、それ以上に組織を消耗させることがあります。

問いの立て方を変える

そこで有効なのが、次のような問いを自らに、そして組織に投げかけることです。

もし、この意思決定を行えば、この先、もっとよくなるだろうか
あるいは
もし、この意思決定がなければ、この先、もっと悪くなるだろうか

この問いを経営者、あるいは幹部社員・管理職が発することで、組織全体が「自分たちの問題」として考え始めます。

意思決定は、決定者一人の頭の中で完結するものではありません。

問いが共有された瞬間から、組織は考え始め、行動を始めます。

その意味で、意思決定とは「決めること」ではなく、「組織を動かすこと」でもあるのです。

仕組みとして組み込む

ただし、問いを立てるだけでは、精神論の域を出ません。

実務で機能させるためには、次のような仕組みとして組み込むことをお勧めします。

意思決定の期限を先に決める

「いつまでに決めるか」を、議論を始める前に先に決めておきます。

期日が定まっていない議論は、際限なく続きます。

「仮決定である」ということを明文化する

決定の時点で、検証のタイミングと修正の余地をあらかじめ組み込んでおきます。

「一度決めたら変えられない」という空気があるからこそ、決定そのものが重くなり、保留につながります。

仮決定であることを最初から共有しておけば、決定のハードルは大きく下がります。

権限と責任の所在を事前に明確にしておく

決定後にうまくいかなかった場合、「誰が決めたのか」を追及する空気があると、次からますます誰も決めようとしなくなります。

決定は個人の判断力の問題ではなく、組織としての運用ルールの問題である、という捉え方が大切です。

小さく試して検証するサイクルを回す

最初から大きく展開するのではなく、小さな範囲で試し、結果を見ながら60点を70点、80点へと修正していきます。

60点の決定を組織全体で引き受ける

ここで強調したいのは、60点の意思決定の質そのものが問題なのではない、ということです。

問題は、60点の決定を70点、80点に修正していく仕組みがないまま、決定を放置してしまうことにあります。

修正を前提とした仕組みさえあれば、最初の決定が60点であっても、組織はそこから前進を続けることができます。

そしてこの仕組みは、経営者一人が抱え込むものではなく、幹部社員や管理職を含めた組織全体で共有し、引き受けるべきものです。

権限委譲とは、単に決定権を渡すことではなく、この「修正しながら質を上げていく仕組み」を共に運用する責任を分かち合うことでもあるのです。

まとめ

最後に、本コラムでお伝えしたいことを三点に整理します。

第一に、「機が熟するのを待つ」ことは、実質的には何もしないことと変わりません

情報収集と状況判断をどれだけ重ねても、タイミングという掛け算の一辺がゼロに近ければ、意思決定の価値はゼロに近づいてしまいます。

第二に、意思決定は60点で構いません。

大切なのは、最初から100点を狙うことではなく、決めるべきときに決めることです。

第三に、その60点の決定を70点、80点へと引き上げていく責任は、決定者一人ではなく、組織全体で引き受けるべきものです。

仮決定であることを共有し、検証と修正のサイクルを仕組みとして組み込むことで、組織は前に進み続けることができます。

意思決定とは、一度きりの正解を探す作業ではなく、決めて、動いて、修正しながら質を高めていく、継続的なプロセスなのだと思います。

組織は、正しい意思決定によって成長するのではありません。

意思決定を繰り返し、その結果を修正し続けることで、意思決定する力そのものを育てていくのです。


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