日本企業はなぜ長期戦に弱くなったのか

―失われた「蓄積する力」と、企業が見失ったもの―

日本企業は、かつて「長期戦」に強い企業でした。

日本企業の競争力の源泉には、短期間で結果を出すことよりも、時間をかけて能力を蓄積していく仕組みがありました。

技術力、品質へのこだわり、現場改善、熟練者から若手への技能継承、顧客との長期的な関係。

これらは、短期間では作ることができません。

長い年月をかけて、組織の中に経験や知恵が蓄えられ、それが企業の競争力になっていました。

しかし、1990年代後半以降、日本企業を取り巻く環境が変化する中で、この「蓄積する力」が弱まっていったように思います。

その背景には、大きく2つの変化がありました。

目次

成果主義によって、成果を見る時間軸が短くなった

成果を正しく評価することは、企業経営において重要です。

頑張っている人が評価され、成果を出した人が報われる仕組みは、組織の活性化につながります。

問題は、成果主義そのものではありません。

何を成果と考えるのか」という点です。

以前の日本企業では、すぐには数字にならない活動も、長期的な価値として扱われていました。

例えば、

・将来につながる技術開発
・若手社員の育成
・品質向上への取り組み
・現場の小さな改善

といったものです。

これらは、短期的な利益には表れにくいものですが、数年後、企業の競争力になります。

しかし、短期的な業績へのプレッシャーが強まる中で、企業では「今期の数字」「目に見える成果」が重視されるようになりました。

その結果、「将来のために積み重ねる仕事」よりも、「すぐに成果として表れる仕事」が評価されやすくなりました。

企業には、営業で大きな成果を出す人、新しい事業を作る人、組織を動かす人が必要です。

一方で、技術を磨く人、品質を守る人、経験を蓄積する人も必要です。

長期戦で勝つためには、このような「職人タイプ」の人材が欠かせません。

しかし、短期的な成果を重視する評価制度では、こうした人材の価値が見えにくくなります。

現場力が弱くなった理由

もう一つの問題は、企業の現場力の低下です。

失われた30年の中で、多くの企業は厳しいコスト削減を迫られました。

その中で、正社員を減らし、派遣社員や外部人材などを活用する企業も増えていきました。

もちろん、柔軟な雇用形態は企業経営に必要な場合があります。

しかし、その一方で失われたものもあります。

それは、時間をかけて形成される経験の蓄積です。

現場力とは、単にマニュアル通りに仕事を進める能力ではありません。

例えば、

「いつもと少し違う変化に気づく」
「問題が起きる前に異常を察知する」
「状況に応じて最適な判断をする」

といった力です。

こうした能力は、経験を積み重ねる中で形成されます。

また、日本企業では長く「昇進・昇格」が重要な評価基準になってきました。

その結果、管理職になることが会社から認められる一つの形になりました。

しかし、企業に必要なのは、すべての人が管理職になることではありません。

現場で専門性を高める人技術を磨き続ける人組織を支える人も、同じように価値があります。

会社が何を評価するかによって、社員の行動は変わります。

昇進だけが報われる仕組みでは、長期的な価値を生み出す人材が育ちにくくなります。

「守ること」と「強くなること」は違う

日本企業は、失われた30年の中で、雇用や既存の関係を守ることに大きな力を使ってきました。

社員を守ること、取引先との関係を維持すること、会社を存続させること。

これは企業の社会的な役割として重要です。

しかし、「守ること」と「強くなること」は同じではありません。

企業が長期的に成長するためには、

新しい価値を生み出す力、
人材を育てる力、
技術やノウハウを次世代につなぐ力、

が必要です。

安定を維持することだけでは、環境が大きく変化する時代に勝ち残ることは難しくなります。

中小企業の未来に関する問い

この問題は、大企業だけの話ではありません。

むしろ、中小企業こそ考える必要があります。

中小企業の競争力は、

社員の経験、
職人の技術、
顧客との信頼関係、
現場の知恵

によって支えられていることが多いからです。

だからこそ、中小企業の未来を考えるには、次のような問いが必要になります。

短期的な成果を出す人だけが評価されていないか?
10年後の会社の力を作っている人を、きちんと評価できているか?
ベテラン社員が持つ経験やノウハウを、次の世代につなぐ仕組みがあるか?

企業が本当に強くなるためには、目の前の数字だけではなく、未来の競争力を作る力にも目を向ける必要があります。

長期戦で勝つ企業とは、変化しない企業ではありません。

時間を味方につけながら、組織の中に価値を蓄積できる企業なのです。


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